「ビットコインは戦争で繁栄する」 グローバルリスクとBTC価格との関係は?【研究者らに聞く】
過去10年間、世界の地政学的緊張が増加し、ビットコインを含む金融市場に影響を与えている。それでも、ビットコインは紛争に対するヘッジ手段としての役割を果たしているのだろうか。
イスラエル・ガザ戦争は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が政治的対立者で戦争批判者のヨアヴ・ガラント国防相を解任したことで、さらに継続する見通しだ。ヒズボラとの停戦によって、ガザでのイスラエル軍の作戦が激化するかもしれない。
ウクライナでは、北朝鮮の軍隊が配備され、ロシアは史上初めて核弾頭を搭載可能な弾道ミサイルを実戦利用した。
さらに、米国のドナルド・トランプ次期大統領の勝利は、ウクライナのアメリカ製武器と車両へのアクセスを減少させ、ヨーロッパ諸国をより積極的な役割に追い込む可能性がある。
これらの紛争は、地域的および世界的な緊張をゆっくりと着実にエスカレートさせている。市場はリスク回避が高まると大幅な売りに見舞われる傾向があるが、ビットコイン(BTC)も該当するのだろうか。
「ビットコインは紛争で繁栄する」
ビットコインの価格は市場センチメントに特に敏感である。世界的な紛争のエスカレーションは、イランが2024年4月にイスラエルに前例のない直接攻撃を行った際に証明されたように、即時にネガティブな影響を及ぼす。イランはダマスカスのイラン大使館へのイスラエルの空爆に対する報復措置として攻撃を行ったが、これは4月13日にBTCの価格を8.4%下落させた。
4月13日のBTC価格. Source: TradingView
BTC価格は地政学的緊張の期間中に低迷することがあるが、さまざまな紛争からの歴史的データは、時間枠に応じて異なるナラティブを示している。
トップ20の地政学的リスクイベントとBTCパフォーマンス Source: ETC Group
ビットワイズのリサーチ責任者である アンドレ・ドラゴシュ氏の研究 によれば、ビットコインは地政学的リスクや紛争が発生すると短期的には価格下落を経験することが多いが、50日以内に価格が回復し、イベント前の水準を上回ることが多いという。
ドラゴシュ氏はコインテレグラフに対し、「ビットコインのボラティリティはその誕生以来構造的に下降傾向にあるが、依然として株式などの伝統的な資産クラスと比較して相対的に高い」と語った。そのため、ビットコインは一般的にリスク資産と見なされている。
「地政学的リスクが増加するなど不確実性が高まる時期には、リスク資産は通常売却され、安全な資産やボラティリティの低い資産、例えば金や米国債などに投資される傾向がある」という。
これは、ビットコインが短期的に地政学的リスクイベントに苦しむ理由の1つだ。
ドバイに拠点を置くビットコインL2流動性プロトコルVelarの共同創設者兼CEOであるミシル・タコレ氏は、世界的な紛争の初期段階において、「人命、食料、物流、もしくは地域紛争が世界大戦に発展するのを防ぐことなど、より重要な問題が焦点となった際、仮想通貨のようなものはあまり関心を持たれないエキゾチックな資産と見なされる」とコインテレグラフに語った。
「短期的には、中東で全面戦争が一夜にして勃発すれば、ビットコインを含むすべての仮想通貨が赤字になるだろう」とタコレ氏は語った。
しかし、初期のショックが和らぐと、ビットコインは数日で反発する可能性が高い。「主要な世界的な紛争の最初の48時間以内にパニック売りの衝動に抵抗できた人々は、その信念が報われるだろう」と彼は付け加えた。
「長期的には、地政学的な紛争は、財政支出の増加、金融政策の緩和、サプライチェーンの混乱、商品価格の急騰などの要因により、世界的にインフレ率が上昇する可能性を高める。これらはすべてビットコインに利益をもたらすだろう」と語った。
ドラゴシュ氏の理論は、ビットコインが世界の流動性のバロメーターであると提唱したマクロ経済学者で金融アナリストの リン・アルデン氏の研究 と一致している。
BTC価格は世界の流動性の変化を追跡する傾向があるSource: Lyn Alden
この理論は、ビットコインの価格動向が、採用や技術開発のような内部要因ではなく、世界の流動性条件によって大きく影響を受けることを示唆している。
「希少資産は一般的に、拡張的な金融政策によって引き起こされるインフレの増加から利益を得る傾向がある。『より多くのお金がより少ない商品を追いかける』ためだ」とドラゴシュ氏は語った。
タコレ氏も同意し、「ビットコインが豊富な流動性の下で繁栄するという強力な証拠がある」と語った。彼は、ビットコインが積極的な金融拡大の時期に成功するのは、流動性の増加だけでなく、「主要な法定通貨の価値低下の愚かさを見抜く人々の避難所として」もあるかもしれないと付け加えた。
タコレ氏は、「この仮説を試すような全面戦争が起こらないことを願っているが、実際にはビットコインが紛争で繁栄するというケースがある」と結論づけた。とはいえ、ビットコインの回復力には限界がある。場合によっては、地政学的なチェスボードの変化に耐えられず、無敵ではないことを証明している。
ビットコインの脆弱性
地政学的な緊張は範囲と影響が異なり、それぞれが独自の課題を提示する。ビットコインは地政学的な不安の時期に繁栄することが多いが、2024年3月の 「BRIC諸国の不確実性と仮想通貨市場の関係」 という研究を主導した研究者たちは、より慎重な見方を示している。
彼らは、全面戦争の場合、ビットコインの回復力が揺らぐ可能性があると警告している。リスボン経済経営大学(ISEG)の講師であり、CSG/ADVANCEリサーチセンターの研究メンバーであるジョゼ・アルメイダ氏はコインテレグラフに対し、「イベントがCOVID-19のパンデミックのように世界的であるか、ロシアのウクライナ侵攻のようにより局所的であるかによって、投資家の行動は異なる」と語った。
「ロシアのウクライナ侵攻のような局所的な地政学的リスクは、仮想通貨投資を『促進する』傾向がある」とした。このような場合、投資家は仮想通貨を、影響を受けた地域から資産を移動させ、制裁を回避し、地域通貨の価値低下における価値保存の手段と見なすことがあるとアルメイダ氏は語った。
「ビットコインや特定のアルトコインは、地政学的な緊張によってもたらされるリスクに対するヘッジ手段として機能し、地域の混乱から財産を守りたい人々に代替手段を提供する」とした。
研究のデータセットは、経済状況が安定している場合、局所的な地政学的イベントの中で仮想通貨がより魅力的になるパターンを示唆しているとアルメイダ氏は語った。
一方、新型コロナウィルス(COVID-19)のような世界的な危機は広範な不確実性を引き起こし、仮想通貨のような高リスク資産への投資を抑制した。
IESGのクリスティナ・ガイオの准教授はコインテレグラフに対し、「パンデミックはすべての市場に広範な不確実性を生み出し、多くの投資家が仮想通貨を非常にボラティリティの高いものと見なし、現金を保持したり、より安全な伝統的資産を求めるようになった」と語った。
局所的な軍事紛争が世界的な規模に拡大した場合、不確実性が支配し、ビットコインは投資家の間で恐怖が広がるため、良好なパフォーマンスを発揮できない可能性がある。
ISEGのティアゴ・クルーズ・ゴンサルベス准教授はコインテレグラフに対し、「これは、イスラエル・イランやウクライナ・ロシアのような局所的な紛争の際には、地域の不安定性に対するヘッジとして仮想通貨投資が増加する可能性がある一方で、世界的で広範な危機の際には仮想通貨がリスクが高すぎると見なされることを示唆している」と語った。
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